ポスト福島のエネルギー安全保障戦略

今日味新深(No.73:2013/8/5)

 2012年12月、日本原子力産業協会主催のフォーラムにおいて、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の前事務局長であった田中伸男氏が、IEAが発表した最新の「2012年版世界エネルギー見通し(World Energy Outlook 2012)」(以下、WEO2012と記す)を踏まえ、グローバルな視点から日本のエネルギー安全保障について講演し、いくつかの提言を行っています。旧聞に属することではありますが、いま改めて世界の中で日本のエネルギーを考える意味からその概要を以下に紹介します。

  1. WEO2012によると、現在、世界のエネルギーシステムの根幹が変容しつつあり、今後もっとも注目すべき国は米国とイラクである。米国は非在来型石油、ガス(いわゆるシェールオイル、ガス)生産が急増しており、石油の中東依存は減少し、2035年までに在来、非在来を含めた天然ガス輸入国から輸出国となる。他方、イラクは石油生産量300百万バレル/日(2012年)が830百万バレル/日(2035年)へと2.8倍の急拡大が見込まれ、世界の石油生産増加量の45%を占め、2030年代までには、ロシアを抜き世界第2位の石油輸出国となる。
  2. その影響により、中東産石油は90%近くがアジアへ輸出されるようになると予測される(2035年までに)。
  3. 天然ガスは、米国、南米、アフリカなどの輸出国増により、供給元は多様化する。日本にとっては、潜在的調達先の多様化が、市場における価格競争圧力となり、従来より安価な天然ガス調達が可能となる。
  4. 日本の電源構成の見通しは、原子力エネルギーが2020年までに20%に回復するが、その後2025年に15%まで減少する。さらに石油に関しては、石油火力発電の新設禁止の影響もあり減少していく。その穴を埋めるのは3倍増の再生可能エネルギー(水力を含む)と天然ガスである。加えてエネルギー高効率化のための技術開発が必要である。

 以上を踏まえ、田中氏は、『21世紀のエネルギー安全保障は短期的危機対応とともに、持続可能な電力供給のための多様な電源確保』が重要と提言しています。具体的には、次の諸点です。

  • イランによるホルムズ海峡封鎖危機は、原油およびLNG輸入停止や価格高騰を招く。具体的な対策には、原子炉再稼働も視野に入れた緊急時対応シナリオの準備。
  • 十分な安全性が確保されれば、原子力発電も重要なオプションであること。
  • 再生可能エネルギー発電は分散/変動型システムであるため、供給の安定性と経済効率の点から、供給地と消費地間の電力系統網強化、50/60Hz周波数の統一が必要。
  • 日本は、米国、カナダ、豪州からの天然ガス輸入多様化を図ること。ロシアとのガスパイプライン接続、国内パイプラインの整備も必要。電力もロシア、韓国との系統接続などの視点も必要。
  • エネルギー安定供給向上の技術開発の追求が必要。具体的には、高効率太陽光、スマートグリッド、 次世代自動車、蓄電、超伝導送電、水素関連、メタンハイドレート、次世代CCS1)などに関する研究開発の推進。
  • 中国、ASEAN、インドなどと経済連携が進む中で、新しいエネルギー安全保障枠組みなど多層的エネルギー安全保障外交の推進。

 田中氏の提言は、日本におけるエネルギー安全保障およびエネルギー関連ビジネスの展開と、さらなるグローバル化へ向けた新たな視座を供するものです。


1) CCS (Carbon Dioxide Capture and Storage):二酸化炭素の回収・貯蔵