~超電導加速器の開発動向~

今日味新深(No.90:2018/1/20)

■ 粒子線がん治療は、ガンマ(γ)線の代わりに陽子や炭素イオンなどの荷電粒子を高エネルギーに加速した粒子線を用いる治療です。他の放射線治療とは異なり、加速された粒子線には高線量ピーク(Bragg peak)と呼ばれる浸透深さに対する線量分布特性があり、必要以上に深い箇所に入るのを防いで周囲の正常細胞への影響を最小限に抑え、腫瘍細胞のみを殺傷することができます。治療効果の高さから、近年は国内外において粒子線がん治療の注目度が高まっており、治療装置の設置台数が増加しています。日本では医療用重粒子加速装置「HIMAC」を1994年に導入したことを皮切りに、これまでに全国で重粒子線がん治療装置が5カ所、陽子線がん治療装置が11カ所の医療施設に導入されています。

■ 粒子線治療を行うためには、磁場中を荷電粒子が運動するときに作用する力を利用し、体内腫瘍の深さまで到達するエネルギーの荷電粒子ビームを誘導・制御する円形加速器が必要になります。しかし、磁場を発生するための電磁石が大がかりになることが粒子線がん治療普及の妨げになっています。現行の重粒子線治療装置のサイズは1辺あたり50 m以上あり、建屋の建設費用を含めて100 億円以上かかるため、自治体や国の補助が不可欠とされています。見方を変えれば、超電導の適用によって電磁石を高磁場化できれば、装置を小型化できることから、粒子線がん治療装置の加速器は超電導電磁石の応用先として魅力的といえます。

■ 海外にある一部の粒子線がん治療装置メーカーでは、低温超電導加速器を既に商品化しています。例えば、陽子線治療装置の最大手メーカーであるIBA社(ベルギー)は2012年に陽子線治療装置の一部として小型超電導シンクロサイクロトロン加速器を開発しています。加速器の直径は2.5 m、重量は約50 tであり、常電導加速器(直径:4.34 m、重量:220 t)に比べて大幅なサイズダウンを実現しています。

■ 日本では、東芝と放射線医学総合研究所(放医研)ががん腫瘍に対して360°の任意の方向から重粒子線を照射できる低温超電導電磁石を用いた回転ガントリーの開発を進めています。この回転ガントリーを使用すると、どの方向からでも重粒子線をピンポイントに照射できるため、治療台を傾ける必要がなく、患者の負担を減らせます。図1に示すように、超電導電磁石を利用することにより、従来の回転ガントリーと比べて装置の大幅な小型・軽量化に成功しています。

図1 銅電磁石と超電導電磁石を使用した重粒子線回転ガントリーの比較
(出典:放射線医学総合研究所プレスリリース)

■ この回転ガントリーの超電導電磁石にはNb-Ti合金の超電導線が使用されており、直接冷却方式の小型冷凍技術を応用して、液体ヘリウムをほとんど使用せずにコイルを4 K以下に冷却し、超電導状態を維持しています。ただし、重粒子線がん治療装置の主円形加速器に超電導電磁石を用いる研究はまだ進んでおらず、これには冷却システム簡易化や定期点検など法規制面の制限が緩和される高温超電導電磁石の実用化を待つ必要があります。

■ 2013 年度から5年間にかけて実施されている経済産業省の「高温超電導コイル基盤技術開発プロジェクト」において、回転ガントリーや加速器の高温超電導化に関する研究開発が進められています。神戸製鋼グループは日本屈指の超電導線材・マグネット製造技術を保有しており、超電導関連技術のパイオニアです。粒子線がん治療装置の超電導化に神戸製鋼グループのノウハウが貢献できれば、今後の粒子線がん治療の普及が期待できます。