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平成23年特許法等の改正について~2~

今日味新深(No.43:2012/1/27)

前回に続き平成23年特許法等改正の内容について紹介します。

<法律改正の内容 その2>

③審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求の禁止(特許)

(ア)従来の問題点

 特許権につき無効か否かの争いが生じたときは特許庁での審判において無効か否かの審決を出します。しかし争いの当事者はその審決を取り消せと裁判所に訴えることができると同時に特許が無効とされた場合は特許権者は訂正審判を特許庁に請求できます。
この制度は特許権のキズをなくすためにはいい面もありますが、一方特許庁と裁判所との間で同じ事件が往復するいわゆる「キャッチボール現象」が起こる理由ともなっています。これが問題なのですが複雑なので時系列的に説明します。

第一段階

 今ここに特許権者A社がいるとします。ところがB社が自社製品開発をするためにA社の特許権が障害になるのでこれを無効にしたいと考えたとします。このときB社は特許庁に無効審判(知的財産権関連の審判は特許庁が行います)を請求することができます。その結果、特許権を無効とする審決が出たとします。

第二段階

 しかし特許権者A社はこれに不服ならば「特許庁の審決を取り消してくれ」という「審決取消訴訟」を知財高裁に提起することができます。特許庁ではなく裁判所に訴える点に注意してください。
これにより特許庁による審決が確定することを防げます。そうしておいて特許権者A社は「今の特許の範囲では裁判で負けるかもしれない。この際負けそうな点を補正して範囲を小さくしてでも特許を守ろう」という作戦に出ることがあります。
そのためA社は特許庁に「当社の特許の範囲を小さくしてください」という「訂正審判」を請求することになります。そうなると同じ特許についての争いが裁判所と特許庁との両方に判断を求められているという状態が生まれます。

第三段階

 さて、こうなると裁判所は「訂正審判の審決によって特許権の範囲が変わるかもしれない。それならその特許を無効とした審決も変わる可能性が出てきた。だからその審決について裁判を続けるのは適切ではない」として、特許庁が初めに出した審決(特許権を無効とした審決)を取り消して、特許庁に差し戻します。

第四段階

 特許庁は訂正審判で特許権の範囲を決めたのち、その特許権について無効審判を再開します。特許権の範囲が訂正された場合、今度は特許権が有効という審決になれば特許権者A社は満足でしょうが、B社の主張が上手でまたもや特許が無効という審決になったとしましょう。
つまり第一段階に逆戻りした状態です。

第五段階

 ここからは第一段階からの繰り返しになります。
特許権を守りたい特許権者A社は再度「審決取消訴訟」を提起し無効審決が確定しないように防いでおきつつ、一方で特許の「訂正審判」を特許庁に請求して「しかたないからもう少しだけ特許権の範囲を小さくしよう。訂正審判を繰り返しながら少しずつ小さくしていけばそのうち勝てる」という作戦に出ることがあります。すると裁判所は「審決取消訴訟が提起されたが、特許権の範囲をまた変えるなら変えた後の特許権が有効か無効かを審決するのが先だろう」として再度、事件を特許庁へ差し戻します。
こうして特許庁と裁判所との間で事件が往復するいわゆる「キャッチボール現象」が起きます。

これでは・・・

 これでは特許権が確定しないまま時間も審理費用もムダにかかってしまいますので世界とのイノベーション競争に不利と言わざるを得ません。
そのため、これを改正しようということになりました。ただし訂正審判にはメリットもありました。それは特許権者A社が訂正審判による審決をみてどのような点を訂正すればよいかを把握できるという点です。このメリットは残すべきと考えられています。

(イ)改正点

 改正特許法では、まず審決取消訴訟提起後は訂正審判請求が禁止されました。キャッチボール現象をなくすためです。しかし上記のメリットを維持する観点から、最初に特許無効審判の審決が出る前に特許庁側が特許の有効性について判断を開示する「審決の予告」という制度を導入し、これをみて特許権者A社はさらに特許の訂正を請求できることとしました。
つまり「特許権者A社は審決取消訴訟を提起した後では特許の訂正審判を請求できないこととなったので、その代わり最初の特許の無効審決(上記の第一段階)が出される前に訂正のチャンスが用意された」ということです。

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